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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)2529号 判決

控訴人・被告(反訴原告) 芝信用金庫

訴訟代理人 米津稜威雄 外四名

被控訴人・原告(反訴被告) 中川源次

訴訟代理人 稲田輝顕 外一名

主文

原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。

前項の部分につき本件を東京地方裁判所八王子支部に差し戻す。

事実

一  当事者の申立

1  控訴人

主文第一、二項同旨

2  被控訴人

本件控訴を棄却する。

二  当事者の主張

次のとおり付加訂正するほか、原判決の反訴請求部分に関する事実摘示と同一であるから、こゝにこれを引用する。

1  原判決四枚目裏一行目に「被告は、本件建物につき」とあるのを「本件建物については、訴外菅田を債務者とし、控訴人を権利者とする」と、同九行目に「をしている」とあるのを「が経由されている」と、同八枚目表八行目に「本件建物」とあるのを「本件土地」と、同九枚目表一行目に「賃借権を有する」とあるのを「有する賃借権に本件抵当権の効力が及ぶ」とそれぞれ訂正する。

2  控訴人の主張

控訴人と被控訴人との間に存する紛争は、本件建物につき本件各登記の登記原因たる抵当権ないし根抵当権(以下「本件抵当権」という。)が存在しているか否かに尽きるのではなく、本件抵当権が本件土地の賃借権を把握しているか否かにあるのであるから、単に控訴人が被控訴人との間で本件抵当権の存在確認を求めただけでは、右の紛争を解決することはできないのである。もつとも、本件抵当権が本件土地の賃借権を含むか否かは、控訴人の申立にかかる競売手続において最低売却価額が執行裁判所により決定された段階で、控訴人が執行異議を申し立てることにより明らかにされれば足りるともいえなくはないが、右の方法が可能であるからといつて、本件確認の訴えが許されないとはいえないというべきである。また、執行裁判所は、本件確認の訴えの判決に拘束を受けることはないと解されるが、それが事実上の拘束力を有することは明らかであるところ、このような事実上の拘束力もまた、当事者間の現在における法律上の利害に直接影響を与えるものである限り、確認の利益を認めることができると解すべきであつて、このことは、いわゆる国籍確認訴訟に関する最高裁判所の判例(最高裁判所昭和三二年七月二〇日大法廷判決・民集一一巻七号一三一四頁)に照らして明らかである。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一  当裁判所は、控訴人は本件反訴請求について確認の利益を有しており、これを適法と判断するものであつて、その理由は、次のとおりである。

1  確認の訴えは、訴訟当事者の間に存する権利又は法律関係についてだけでなく、訴訟当事者の一方と第三者との間に存する権利又は法律関係についても、その存否を確認する法律上の利益がある限り、これを提起することが許されると解すべきものであるから、本件反訴請求の目的たる法律関係が被控訴人と訴外鈴木毅との間のそれであるからといつて、直ちに本件反訴が不適法となるものでないことは、いうまでもないところである。

2  ところで、土地の賃借人がその土地上に所有する建物について設定した抵当権の効力は、特段の事情のない限り、土地の賃借権に及ぶと解すべきである(最高裁判所昭和四〇年五月四日第三小法廷判決・民集一九巻四号八一一頁参照)から、控訴人の主張によれば本件建物の原所有者で本件土地に賃借権を有していた訴外菅田たまのから本件建物の売渡しを受けたとされる訴外鈴木が、控訴人主張の経緯により、現に被控訴人に対し本件土地の賃借権を有するならば、本件抵当権の効力は右賃借権に及ぶこととなる筋合のものであるところ、被控訴人は、本訴において、控訴人の主張する訴外鈴木の本件土地に対する賃借権を否認しているのであるから、そのことは、とりもなおさず、控訴人が本件建物について有する抵当権の効力が本件土地の賃借権に及ぶか否か、換言すれば、本件抵当権の効力の及ぶ範囲いかんについて、控訴人と被控訴人との間に直接の紛争が存在することを意味するのであつて、本件反訴請求の実質的目的が本件抵当権の効力の及ぶ範囲の確定にあるという点からみるならば、両者間における紛争の直接性はいつそう明らかである、といいうるのである。

しかるところ、建物抵当権の設定者がその敷地に賃借権を有するため、建物抵当権の効力が右賃借権にまで及んでいるときは、右賃借権の存在は、借地法九条の三、同一〇条の各規定とあいまつて、地上建物の担保価値、すなわち抵当権の価値を増大させることが明らかであり、右賃借権の存否は抵当権の権利内容に著しい影響を及ぼし、当該建物の抵当権者が自己の有する抵当権を他に処分しようとする場合の抵当権の価額、又は右抵当権を実行した場合の建物の売却価額に著しい差異をもたらすものであり、しかも、右の経済的な価値ないし価額の差異は、単なる事実上、経済上のものにとどまらず、当該抵当権の内容そのものに基因するものというべきであるから、右敷地賃借権の存在を確定することには法律上の利益がある、と解するのが相当である。

3  したがつて、以上のような事情のもとにおいては、控訴人は、本件建物の抵当権者として、本件土地の賃貸人であることを争う被控訴人を相手方として、訴外鈴木が本件土地につき本件建物所有のための賃借権を有することの確認を求める法律上の利益を有するものというべきである。

なお、控訴人主張のように、本件建物の競売手続中において、建物価額の評価に際し土地賃借権の存在が斟酌されなかつた場合に、これに対して執行裁判所に執行異議の申立ができることは明らかであるが、このような事後における不服申立の手続が存することは、予め本件反訴を提起することにつき即時確定の利益を失わしめるものではない。

二  してみれば、これと異なる見解のもとに本件反訴請求につき訴えの利益を否定しこれを不適法として却下した原審の判断は失当であり、本件控訴は理由があるからこれを認容し、原判決中控訴人の敗訴部分を取り消し、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

よつて、民訴法三八八条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木潔 裁判官 吉井直昭 裁判官 河本誠之)

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